DIYヒストリーのはじめかた [2014-05-19]

はじめに

わたしが講義を聴いてもらっている授業で、自分の興味のあるテーマについて、これまでに書かれた本と論文のリストを作ってください、という宿題を出しました。すると、ある学生さんがこんなリンクをひとつ送ってくれました。

順をおって見るロックの歴史

わたしがやってもらいたかったことは、参考文献のリストを作るということだったので、こうしたリンクをひとつもらうことは意図と異なったのですが、このページから山を登りはじめようとすること自体はもちろん歓迎すべきことです。そのようなことを思いながら、このまとめサイトを読んでいるうちに、歴史について考えるためのいろいろなヒントを見つけられることに気づきました。そこで、その学生さんに向けて、チュートリアルを兼ねた返信を書きたいと思ったのでした。

長々としたメールを受け取るハメになった、その学生さんの心の内を想像すると慚愧に堪えませんが、わたしとしては勝手に楽しく書くことができました。幸い心の広い学生さんで、そのような面倒なメールにもきちんと返信をくれたので、わたしもひと安心。安心ついでに、学生さんに了解をえたうえで、ここに共有することにしました。(一部、勘違いや必要な部分を変更しています)

DIYヒストリーのはじめかた

○○さん、

メールをありがとうございます。便利なリンクですね。昔からのロックの音を、解説を読みながら聴くことができますね。

そこでひととおり聴いて楽しんだら、なぜこのような「流れ」が描かれるのか考えてみませんか?(少し長いメッセージになりますが、時間のあるときでよいので、読んでみてもらえると嬉しいです)。

たとえば、次のようなことを考えてみることができますよね。

この「まとめ」で描かれている「ロックの歴史」は、どのような基準で描かれているのか。どのようなミュージシャンが含められ、どのようなミュージシャンは含められないのか。

このように問いをたててみると、ロックの歴史を語るということは、ロックとは何かという問いにつながることがわかりますよね。ロックとロック以外のボーダーラインは何なのでしょうか。そのボーダーラインは、時代とともに変わっているのでしょうか。

たとえば、2011年のフジロック・フェスティバルには、Tinariwen というバンドが出ていました。

Tinariwen の KEXP-FM での演奏

彼らのやっているのはロックでしょうか、それとも他の何かでしょうか。もしロックなのだとしたら、なぜそのように言えるのでしょうか。逆にもしロックじゃないとしたらなぜ?(こんなにしつこく質問してくるヤツが身近にいたらめんどくさいですね。でも大丈夫、自分で自分に質問してるかぎりは誰にも気づかれません。歴史の楽しみは、こうやってしつこく考えてみるところにあるとぼくは思っています)。

このNAVERまとめで描かれているのは、とてもスタンダードなロックの歴史像のように見えますが、なんらかの基準で情報は取捨選択されています。その基準こそがこのまとめの前提する「理論 theory」ですよね【注:授業では実証研究における理論について論じたばかりでした】。その理論が妥当なのかどうか疑ってみることができます。これまでの歴史研究ではそのような、一般的なロックの歴史像が疑われることはなかったでしょうか。

日本の国立情報学研究所の、論文検索システムcinii articlesで「ロックンロール」「歴史」で検索してみると、次の書評が出てきました。

http://ci.nii.ac.jp/naid/40016597307

書評されている本のサイトにあるコピーを見てみると、既存のロック史に対して、新しい歴史像を提示しようとしているものだということがわかります。(なんと、トム・ウェイツが推薦の言葉を書いています。この本は、ぼくもぜひ読んでみたいです。○○さんのメールがなければ調べなかったと思います。ありがとうございます)。

http://www.elijahwald.com/beatlespop.html

他にもロックの歴史について、新しい像を提示しようとしている本はないか気になりますよね。Google scholar で検索してみると、たくさん出てきます。

Google scholar での "rock" + "history" の検索結果

どうしても日本語がよければ、日本語だけに絞って検索してみましょう。

Google scholar で日本語のものに限定して「ロックンロール」+「歴史」を検索した結果

PDFファイルでダウンロードできる論文もありますね。

ほかにも、アマゾンGoogle Booksでも調べてみましょう。もちろん大学図書館のサイトも使ってみてください。

まだ、見つけたもの全部を読む必要はありません。まずは自分の興味に関連する文献にどのようなものがあるのか調べて、リストを作ってみてください。ロックについてこれまでに書かれたもの全てを網羅しようなどと思わなくてよいです。参考文献のリストは、調べながら育てていくものなので、まず作りはじめることが今週の宿題の目的です。

ここまで、ロックの歴史像という大きなテーマについて例を示しましたが、もっと絞ったテーマでもかまいません。

たとえば、まとめページの中にアンディ・ウォーホールが出てきますが、ロックと他の芸術表現の関係はどのように変化したのか気になりませんか?ロックは最初は大衆的なものと思われていたのに、高級な芸術と関連付けようとしたひとたちがいたわけですよね。そんなことを考えはじめたひとたちは、いつ頃からなぜ出てきたのでしょうか。

あるいは、ロバート・ジョンソンもマディ・ウォーターズもボブ・ディランも、何度も何度もカバーされていて、作品の解釈もさまざまに書かれています。ひとつの作品に注目して、それに読み込まれる意味がどのように変化したかを考えるといったことも興味深いと思います(ぼくなら、大きすぎるロックの歴史全体よりは、絞り込んだテーマのほうが考えやすいので、そういうものを最初は選ぶかなと思います)。

送ってもらった「まとめ」は、そこからいろんなテーマを見つけられる、とてもよい入口だと思います。ぜひ、自分がもっと深く考えたいと思うテーマを拾い出してください。

長々と書きましたが(なにしろ、しつこいのが歴史研究の美徳ですから…)、お勉強のためというよりは、楽しんで調べる気持ちでやってみてください。好奇心を満たすために一所懸命考えるのは楽しいことです。調べれば調べるほど、この世界についてわからないことが出てきて、もっと楽しくなります。そうやって、世界と自分の関係を考えなおして変えていくことが、「世界史」を学ぶ目的だとぼくは思っています。

宮本隆史
MIYAMOTO Takashi